
>---Short Story from Hoshinoya Kyoto-----
窓を開けると、大堰川が眼下にあって、
ゆるりゆるりと流れていた。
先ほど、嵐山の渡月橋のたもとから
この川を船で上って、このホテルに到着した。
山々の緑に洗われた、
清浄な空気が部屋に流れ込んでくる。
六月の京都嵐山の空気は、
まだ少しだけひんやりと気持ちがいい。
たくさんの鳥たちのさえずりをBGMに
窓際のソファに半分寝そべるように腰かけて
もう20分は、ただただ景色を眺めている。
星のや京都の客室の窓際に置かれたソファは
そういうことをしたくなるソファなのだ。
最後に窓から身を乗り出して、
思い切り深く深呼吸をした。
そういうことをしたくなる窓なのだ。
白い大きな鷺が、川の水面ぎりぎりを
すーっと滑空して飛び去っていった。
-------From Freemagazine HOTEfree-----
ホテルを語る時、とりわけリゾートホテルを語るときには
“非日常空間へのアプローチ”
が重要な要素であると僕は考えている。
ホテルのエントランスをくぐった瞬間に「WOW!」と
非日常空間へトリップするようなホテルも凄いけれど、
やはり人の気持ちはそんなに瞬時には盛り上がれないことも多々なので、
ホテルに到着するまでのアプローチを大事に考えてほしい。
超ラグジュアリーなホテルの総支配人たちは、
地元のタクシーの運転手さんに手厚いサービスをする。
それは、ゲストが駅でタクシーをピックアップし
「○○ホテルまで」
と告げたときに
「いいホテルにお泊まりですね」
というセリフをドライバーから言ってもらうため。
そうやって、ホテルまでのアプローチの中で、ゲストは気持ちを
盛り上げていくのだ。
“アプローチ”という意味で、
今回訪れた「星のや京都」はなかなかに面白いシーンを用意してくれた。
京都・嵐山、有名な渡月橋のたもとから、船で川を上り、
それからチェックインするのである。
山紫水明の風景のなかで、ゆっくりと静かに川を上りながらホテルを目指す。
否が応にも気持ちは盛り上がる。
これはあとで「星のや京都」の総支配人である
菊池昌枝さんから聞いたことなのだが、
このアプローチを自在に実現するために、星のやのスタッフは
「船舶免許取得運動」を行って、
今は全スタッフの半数が免許を持っているとか。
それだけ、“アプローチ”を作るのは労力がかかる
ということの現れかもしれない。
さて、船がホテル近くの岸についた。
石畳の階段を登っていくと、そこにあるのが「星のや京都」である。
このリゾートのコンセプトは「水辺の私邸」。
安土桃山時代の豪商である角倉了以は、
百人一首や源氏物語にもうたわれたこの地を好んで邸宅をかまえたという。
嵐峡に抱かれたこのリゾートを、まさに「私邸」のように楽しめるか。
それはあなた次第だ。
(後半につづく)
